七十八歳の少年、新しい居場所を見つける
「俺はまだ、そんなトシじゃない」——自立心を尊重し、新しい活力を生むデイサービス
老いを受け入れたくない、夫のプライドと妻の願い
「俺はまだ、そんなトシじゃない」居間の特等席、使い込まれた座椅子に深く腰掛けた大島源治(七十八歳)は、テレビの画面を見つめたまま、むすっと呟いた。
画面の中では若手俳優が旅番組で大はしゃぎしているが、源治の心は晴れない。最近、自慢の足腰にどうにも「キレ」がないのだ。散歩に出てもすぐ息が切れる。だが、それを認めるのは、自分の老いを受け入れるようでどうしても嫌だった。
「あなた、またテレビばっかり。少しは外で歩いてきなさいよ」
台所から妻の和子が声を飛ばしてくる。和子の心配ももっともだった。家の中なら自立して歩ける源治だが、最近はすっかり出不精になり、会話の相手といえば和子だけ。和子としては、夫にいつまでも元気でいてほしいし、たまには外で誰かと笑い合ってほしいと切に願っていた。
そんなある日、一枚のパンフレットが居間のテーブルに置かれた。
(おいおい、デイサービスだって? 俺をあんな、お遊戯をさせられるような場所に連れていくつもりか!)
源治は猛反発した。介護なんて受けるものか。俺は高血圧の薬を飲んでいるだけで、頭だってしっかりしている。
「お遊戯」ではない、大人のための上質な時間
しかし、和子の「見学だけでも。嫌ならすぐ帰ってきましょ」という熱意に負け、源治はしぶしぶその施設の門を叩くことになった。
「いらっしゃいませ、大島さん! お待ちしておりました!」
出迎えたのは、親しみやすい笑顔のスタッフたちだった。中に入って、源治は少し驚いた。そこは彼が想像していた「お遊戯の場」ではなく、まるで行きつけの喫茶店や、居心地の良いリビングのような、温かく落ち着いた空間だった。
「大島さん、今日は少し体を動かしてみましょうか。無理のない範囲で、普段の生活が楽になる運動をやりましょう」
スタッフに案内され、源治は椅子に座りながらできる、足腰のストレッチや軽い体操を始めた。
褒められて、悪い気はしない。器具を使わない自然な動きだからこそ、自分の体のどこが鈍っているかがよく分かる。眠っていた筋肉が「まだやれるぞ」と心地よい刺激を受けているのを感じた。
心と体を解き放つ、至福の入浴と新しい繋がり
さらに、源治の心を軽くしたのは入浴の時間だった。大浴場のような騒がしさはなく、お一人ずつ丁寧に入り口をサポートしてもらえる、清潔でゆったりとした個人のためのお風呂。お湯に深く浸かっていると、日頃の凝り固まったプライドや「介護を受ける」という心のトゲまで、じんわりと溶けていくようだった。
湯上がりに、ラウンジで冷たいお茶を飲んでいると、近くにいた同世代の男が話しかけてきた。
気づけば源治は、初対面の相手と昔の仕事の話や、最近のプロ野球の戦況について熱く語り合っていた。ただテレビを見るだけの一日では、絶対に味わえない「誰かと繋がる心地よさ」がそこにはあった。
「介護」ではなく「大人のサークル」へ
夕方、自宅に戻った源治は、玄関で待っていた和子にぶっきらぼうに言った。
驚き、その後、嬉しそうに目を細める和子の顔を見て、源治は少し照れくさそうにテレビのリモコンを置いた。
介護を受けるんじゃない。俺は、現役を長く続けるために、あの心地よい「大人のサークル」へ通うのだ――。